胡乱な物置

自分のため。感想考察とにかく長文書き散らし

矜持と愛のあり方【灯堂理人誕生日2021】

はじめに

灯堂理人さん、お誕生日おめでとうございます。
不器用ながらもメンバーやAntholicに誠実に向き合ってくれる姿が大好きです。理人さんのご健康を祈るとともに、2週間後の10/1に発売される「es」での歌声を楽しみにしております。

The Way I Amシリーズ開始から1年が経過したということで、ソロの順を追って曲の発売月に記事を書こうと思った次第です。具体的に歌詞の内容や歌自体については先達の方々がたくさんの思いをしたためていらっしゃると思うので、私はソロ曲のインストについて書きます。

一応趣味の範囲で作詞作曲とライブ活動を行っている身ですが、音楽用語に詳しいわけではないですし耳も良くないので取りこぼしが多いです。あくまで雰囲気で曲を聞いています。ただ、こういうふうにインストを聞いているAntholicもいるんだなくらいの認識でいていただけると幸いです。

各ジャンルで「インストがほしい!」と叫ぶインストオタクにとって、このThe Way I Amシリーズは歓喜ものでした(11月発売Bestアルバムに1stシーズン曲のインストが付くと聞いて泣いて喜んだオタク)。「天才すぎる……」と天を仰ぐもの、「こういう心情の現れかな……?」と考えさせられるもの、歌の下地に徹したものなど各所いろいろ勝手に考えていますが、こういう聞き方もあるんだと思ってインストにも耳を傾けてくださったらこれに勝る喜びはありません

Pain In My Heart

www.youtube.com

The Way I Amシリーズのトップバッターとして発表されたこの曲に初めて触れたのは、まだAnthosの曲オタクだったときのことだった。しかもYoutubeの公式チャンネルから聞いたわけでもない。

2020年9月21日。友人がある店に入ったとき、そこで流れていたのがこの曲だったとLINEをくれたことからだ。「なんか伊東健人さんみたいな声がする」そう考えて彼女はSiriに曲を聞かせたそうだ。そして、Siriが答えた結果が「灯堂理人(CV:伊東健人)の"Pain In My Heart"のように聞こえます」だった。

その頃にはすでにAnthosの曲にどっぷりとハマっていたため、これは報告しなければと私にすぐ知らせてくれたことに感謝したい。ただ、ソロはどうしてもキャラクターソングとしての感覚が強くなる傾向にあるため、当時理人のことについてプロフィール以上の知識を持っていなかった私はあまり聞く気がなかった。

試聴動画時点で、歌声担当の名前は伊達じゃないな……と思って終わった程度だ。(この時点でインストの素晴らしさが存分に出ていたのに気づかないとはオタク失格では?と今では思うが、彼の要素を把握せずに聞いていたのでそこは仕方ないと思ってほしい……。)

紆余曲折あり、ドラマパートを全て履修してようやく手を付けたソロシリーズでもう一度この曲を、次はフルとインストで聞いて私はひっくり返った。

先に結論を言ってしまおう。この曲のインストは、灯堂理人の歌、そして彼を表すための曲であると示すために織りなされたもののように思う。

ご存知の通り、灯堂理人はAnthos*の歌声担当だ。歌が主体のアイドルコンテンツで歌がうまいのは当然だろうと思うこともあるが、理人はその前提すらねじ伏せて自分が持つ担当としてのあり方を堂々と示している。それを如実に示しているのが1番Aメロのインストの動きだろう。

前奏からAメロに入った途端、リズムサウンドが鳴りを潜めてほぼシンセの音のみになる。それも派手に動くことはなく、基本的には全音符で和音を押さえるだけの静かなものだ。感覚としては、雨が降りだす前の涼やかな静けさに似ている。ほぼ一貫して鳴り続けるこのシンセの和音は、理人という単体の人間をイメージしているようにも聞こえる。

前奏の盛り上げから一転ここまでトラックを抜いたのは、ひとえに彼の歌を聴かせるために違いない。最低限の音の構成だけで、灯堂理人が持つ歌の素晴らしさが引き立つように作られている。聴かせる場所はサビやCメロであることが多いように思うが、あえてそれを歌いだしに持ってくることで「歌声担当」としてのあり方を最初に提示することになるのだ。

正直自分が歌うとしたら、ライブでこの音が耳から聞こえたら緊張してしまう気がする。クリック音が入る想定は付くが、リズムの標がない曲は相当の自信がないと気持ちを込めて歌うどころではない。それでも、迷わず真っ直ぐに歌を届ける理人のあり方だからこそ、このAメロインストが必要だ。

Bメロからは各種トラックが帰ってきて、理人の心中にも似ていたシンセの音にリズムが加わる。外的要因による変化とでもいうのが良いだろうか。静かな彼の音は次第に色彩を増し、鮮やかに色づき始める。リズムを刻む音たちは雨粒の比喩と思いたい。

サビの盛り上がりと音の複雑な絡み合いに対して、理人の歌を構成する音はかなり単純だ(決して簡単というわけではない)。1番サビ最初の"Pain In My Heart"では音がほとんどなくなり、この歌詞が強調されるようになっている。他の音が立ち消えて無音になる一瞬は誰しも曲を聞いた人はハッとするが、この曲ではその方法がサビ部分で何度も使われる。それは今示したサビ頭の無音と、曲の中で特に印象的と言っても良いフィンガーグリップだ。前奏で一度だけ鳴ったフィンガーグリップが三度も鳴る。そのたびに理人の歌声も、音も、ふっつりと途切れ、あとには一拍分の膨大な余白と余韻が残る。予測はできるものの確定はできない、メンバーの中でも開示されている情報が少ない理人の秘密がそこにあるようで、私はその音の隙間を鍵穴のように感じた。また、静かに和音を響かせ続けるシンセが何度も途切れることにより、うまく行かずに心乱される彼の胸中が表されているような気もする。

メロディが大きく動くCメロは理人の激情を表現する最大の部分と言っても良い。しかし、インストとしては1番Aメロのように歌を聴かせるフェイズではなくなっている。それは歌を聴かせるのではなく感情を届けるため、押し寄せる波のようなゆらぎを以て理人のメロディがもつ波を増幅させるためのものだ。いろんな層が揺らす波で音の奥行きがいっとう広い。そこに理人の抱える思いの深さ、大きさを溢れんばかりに詰め込んでいると思ってしまうのは、これまでのドラマパートを聞いてしまった人間のうがった考えだろうか。

ラスサビでやはり考えるのは、インストの交わりに対する理人の歌が何を示すかだ。個人的にそれは、理人の愛のあり方そのもののように思う。理人の愛は複雑なようでいて、その実真っ直ぐで単純だ。彼の愛を複雑にしているのは周りの環境であったり、素直になれない性格に起因していると考えているため、本人を差し置いて変わっていく現状や、それを変えられないもどかしさを感じるインストの動きは落ち着いているのにどこか大胆にきらびやかで複雑だ。芯が通った主旋律はそれでもなおまっすぐ聞く人の元に届く。

それこそが灯堂理人の歌であると伝えるように、曲は歌を後押ししている。

実のところ、この曲は理人の声が入って完成形だろうと考えていたので改めてインストに注目して言語化するのは楽しかった。Pain In My Heartのインストめっちゃいい。インストだけでどんだけ感想書いとんねんってレベルで良い。ぜひ聞いてほしい。もう聞いてる? さすが………

最後に

es収録曲Paradisoで彼はこの曲のテーマを「愛」と言っているが、このソロとどのような変化があるのかについてはまた後々考えてみたい。