胡乱な物置

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華Doll*~Flowering~ Boys were still in a dream(コミカライズ書籍版)感想

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華ドルコミカライズ書籍

多忙と心身の不調とクリスマスまでの原稿で完全に更新が止まってました。年末年始、数年に一度の大寒波により(毎年寒いと思うんですけど)寒すぎてパソコンの前に座るのが億劫でならないのですが、どうしてもこれだけ書いて今年を納めたかったので意地でも書き上げることにします。

2021/12/13(月)、待ちに待った「華Doll*~Flowering~ Boys were still in a dream」コミカライズ書籍版が発売されました。発売してすぐ電子書籍を購入し、アニメイトで注文した紙を待ち望みつつ仕事に向かったのはそれなりに今年のいい思い出になったように思います。今回はこちらのコミカライズについて私なりの感想をまとめたいと思います。

本誌連載時のRYOGA~MAHIRO回の感想は以下↓

skmysn.hatenablog.com

感謝

名尾生博先生、1年間華Doll*のコミカライズを担当いただき誠にありがとうございました。私個人は途中からではありますが、毎月掲載誌を購入し、様々な方と感想を話したり展開を予想したりと楽しませていただきました。描き下ろしページや描き下ろし特典まで付けてくださって本当にありがとうございます。これからのご活躍も応援させてください。

kc.kodansha.co.jp

感想

総括

書籍版で数えて総数223ページ。去年の11月に始まり1年間、計12回の連載を経てついに書籍化した本は思っていたよりも分厚く重かった。蛇足だが、K社はわりとこういう分厚い本を平然と作ってくれるので個人的に好きだったりする。実物として手元にあるのとないのとでは実感がまったく違うもので、本を手にとったとき、コミカライズは本当に終わってしまったのだなとどこか寂しい気持ちで破りにくいフィルムに手をかけた。

正直なところを言うと、2020年6月発表当初に「コミカライズ決定」の文字を見たときには本編のコミカライズとばかり思っていたため、実際見て本編の補完ストーリーとなっていることに少しばかり落胆した自分もいた。

というのも、個人的にはメディアミックスによって新規のファンが増えることを望んでいたからだ。パブサしてみると「漫画出るなら読んでみようかな」という未視聴の方が一定数存在したため(具体的数値や意見を提示したいが個人の意見になるのでここには記載しない)そういった足踏みしている層へのアプローチに適していると思っていた。自分自身がすでに本編を知ったあとで拝読しているため確信はできないが、華Doll*についての情報が皆無である状態からコミックの情報のみを押さえるだけでは確実に置いていかれるだろう。公式としてディストピアSFを名乗るのならば特に、世界観の把握とおおまかな話の把握は大切だ。その点で特にメインとなる話の流れが掴みにくいのは大きな弱点となりうる。

年代によるメディア慣れの違いもあるため一概には言えないが、ドラマCDコンテンツは人に手にとってもらう機会が漫画やアニメ、ゲームに比べていくらかハードルが高い。その中で、コミカライズはひとつ大きな新規を得る機会だった(掲載誌の選択についてはなんとも言えないが……)はずだ。ここで新規への販路がうまく繋げられなかったのは口惜しいと個人的に思ってしまうことを許してほしい。

だが、そのデメリットを凌駕するほど既存ファンとしては満足度の高いコミカライズだったと断言しよう。1stシーズンはCDのリリース時期とドラマパートの時系列がほぼ一致していたため、描かれる物語は彼らの日常の重要な部分のみをかいつまんだものになる。それを主に補完しているのがTwitterやブログ等だが、ストーリーにはなっていない以上どうしても断片的になりがちだ。その隙間を丁寧なコマ割りとストーリーでもってして、彼らが親交を深め信頼関係を築いていくまでの過程を描いたのがコミカライズの展開だ。

LIHITO

はじめのリヒト回では呼び方もぎこちなく、皆がそれぞれの距離を測りかねつつも特に距離感を掴みにくかった理人に焦点が当たっている。理人とどのように接していけばいいのか悩みつつも、ひとりのコマにいがちな彼に周りのメンバー(主に眞紘と凌駕)から積極的に同じコマに入り、コミュニケーションを取りに行く姿勢が見られる。元はとても優しい心根の理人だ。眞紘の真っ直ぐな言葉に皆の輪に参加するようになり、最後には自分から眞紘の腕を取り身体を支えに行った。

このあとに理人は開花し更に元の素質である優しい面が強くなっていくわけだが、最初のCDでツンケンしていたところからメンバーと打ち解けていくまでの一過程が描かれていた。

CHISE

続くチセ回ではBoxedリリース前のジャケット撮影での事件を描いている。主に理人とチセの軋轢を描きつつも理人と千勢の関係を匂わせるためのものか。これが本誌で掲載されていたときはロケットペンダントの中身がよく見えなくなっていたのが、es発売後関係が顕になったことで書籍では少し中身が見えるようになっているのが感慨深い。

この回ではふたりの目が特に大きくスペースをとって描かれているように思う(ふたりが中心の回なのだから当たり前といえば当たり前だが)。しかし、肝心のふたりが本音を漏らすシーンでは目が描かれていない。彼らにとって目がとても重要なものであるからこそ、本当のことをうまく飲み込めずに持て余しているふたりの様子が表されているのではないだろうか。

HARUTA

ハルタ回ではIDOLlsの前、みんな大好き今日からスター☆アイドル運動会での一幕を描いている。ここでは陽汰の孤児院時代に言及しており、扉絵では後に同じ孤児院で弟のような存在だった鬨が描かれているのがわかる(くまのぬいぐるみを持って眠っている少年)。

だれよりも明るい太陽を冠する名前であるにも関わらず、誰よりも負の感情が露見しやすい陽汰の目は緑色だ。中盤での記者の心無いぼやきに劣等感を掻き立てられつつ、置いていかれた過去と迎えに来てくれた薫との存在の対比と陽汰の内なる成長が記されていた。

ここで私が大切だと思った点は「応援してくれる人たちのために…」という陽汰のセリフだ。これはFor…での理人チセ、薫陽汰での意見のすれ違いに登場する「期待してくれる誰か」へつながる言葉だろう。漫画での「応援してくれる人たち」は確かにそこにいて彼らを確かに元気づけており、同時に「心無い誰か」の声は黒いもやの人影としてそこにはあるものの実体が様として知れない。形をとらないものは人に容易に取り付いて離れない怪物だ。彼にとって、何を信じるべきなのか、何に目を向けるべきなのかを暗に教えているのがこの回だろう。

KAORU

カオル回ではブログにも記載のあった今日からスター☆クッキングの様子を描いている。このとき、ついにチセの華が咲き、残るは陽汰と眞紘のみになった。思い悩むふたりに大して自分がどう接していけばいいのか、変わっていく人間関係とぎこちない気まずさに薫が思い悩む回だ。

hana-doll.com

料理回は上記リンクのとおりブログにも掲載されているわけだが、この話の裏で薫の心情の変化が起きていたことを描いてもらえるのは個人的にとても嬉しかった。微笑ましい料理番組――兄組たちの料理は壊滅的だが――の最中でもアイドルたちが成長している過程を見られるのはいちファンとしてわくわくする。薫の過去を交えつつ、陽汰回で励ましたように薫が励まされる、相互に助け合う関係が描かれていた。薫と陽汰のシンメは思いやりの相互扶助関係だ。できることをひとつずつ行っていくふたりの成長を、陽汰は対外関係から、薫は内的心情から発露し、仲間から助けられて気づきを獲得している。最もシンメらしい描き方と言ってもいい。

RYOGA

リョウガ回からはブログでの感想も書いているので、大きく話すことはないのだが、一通り読んだ上での感想としてまとめておこう。これは遠征先で野外活動を行う話だ。ついに陽汰の華も咲き、残るは未開花は眞紘だけになった。負の感情を人前で出さないようにしていた眞紘が凌駕の前で弱音を吐くMessageラストのあとであり、彼が上手く眠れなくなったことが言及されている。眞紘は独りとして誰からも距離をとり、作り笑いばかりを浮かべていた。本誌掲載の前半では眞紘の側には誰もおらず、後半で半ば強引に引き合わせるように他のメンバーが凌駕と眞紘を同じ場所にいさせている。

結果的にふたりはすれ違っていた関係を少しほぐし、凌駕の眞紘に対する思いはより強固になった。本誌掲載では「お前のために」という言葉が「お前のために」だったのが書籍では「眞紘(おまえ)のために」になっているのが、校正の結果だろうが亡き智紘に重ねていた眞紘という存在から、確固たる結城眞紘という存在への思いに移ったように思えて感慨深く感じている。

MAHIRO

堂々たる最終回は、やはりセンターにして最後の開花者、マヒロだ。For…を主に眞紘の視点から描いたものであり、最初に期待していた本編のコミカライズに最も近いものだったといえる。原作CDからの変更もいくらかあり、考察をしているファンからすると惑わされるため賛否は分かれるかもしれない。(まあドラマが主体なのだからそこで迷う人はいないか……)もうすこしページを使えたらより良くなったのではというifの気持ちがないわけではないが、もてるページ数で最大限の効果を出しているのではないだろうか。最終回を読んで私が感じたのはリヒト回での階段を登り始める眞紘と今回の階段を降りきらない眞紘の対比だったが、特にこれまでを振り返ったときの各所への対比が大きく回収されている。

上層部からの圧力、内面世界からの智紘を象った存在からの揺さぶり、本音を言うときに見えない表情、独りだったところから迎えられる手に自ら差し出す手。全ての流れがこの1年を過ごしてきた仲間たちだからこそのことで、眞紘が開花した大きな所以だ。

描き下ろし

描き下ろしの各メンバー3コマはとてもほっこりして思わず笑顔になったので、こういうほのぼのしたものもたくさん見たいと欲が出てしまった(同社別コンテンツで昔やっていた4コマ連載みたいな……世界観や各メンバーの紹介をしつつほんわかした日常を描いているやつ……)。また、アニメイト特典の描き下ろしライブシーンでの逸話はぐっとくるものがある。正直こういうのがもっとほしい。

最後に

最終的にはとても良いコミカライズだったと思っているので、ぜひ本編を一通り聞いた上で読んでほしい一冊である。

本格的に連載を追い始めたのはカオル回後編からのことだったため、短い期間ではあったものの、1ヶ月毎の更新を待ち望む日々は本当に心を潤してくれた。

 

華Doll* ~INCOMPLICA~のコミカライズもしてくれることを密かに期待しています……良質な時間を本当にありがとうございました……!!!