胡乱な物置

自分のため。感想考察とにかく長文書き散らし

華Doll* THE STAGE -Another Universe- Part1 Part2 感想

www.hanadoll-stage.com

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 まずは、華STが千秋楽まで完走したことに感謝をしたい。

 コロナ禍が明けたと言われる中でも、インフルエンザの流行含め数字としては感染者が下がっていない状況で、すべての舞台が完走できる状況にはまだない。楽しみにしていた舞台がいくつか直前で公演中止になったり、好きな出演者が出られなくなった知り合いを見ているだけに、SNSで華STのことを楽しみにしている人を見るたびそれを願わずにはいられなかった。

 私は観劇できていないが、特別公演で出演できなくなったアンサンブルさんの代わりに演出家の方が代役を務めたという話を見て、カンパニーの団結や絆も見られる良い座組だったのだろうと感じている。

 事実、キャスト陣の意識の高さや前作からの物販対応の変化など良い点はいくつも見られる舞台であった。SNSのフォロワーの反応を見ても好印象の感想が多く、多数の人間が複数公演を取っているほどである。

 1st season~Flowering~を完走するまでは早いと思いこれまで待っていたが、すべて見たため感想をしたためる。

 

 

 

※ここから先あまり良いことは言わないので、華STが好きな人はこれ以上見ないことをおすすめする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から先に言おう。

 悪い舞台ではない。ただ、あまり好きな舞台ではなかった。それだけだと思う。

 基本的には好ましいと思った人間しか感想を呟いていないため、良いという感想しか出ていないのではないかとすら考えているくらいだ。あの舞台は癖が強いというか、華Doll*をどう捉えているかで受け取り方が変わる舞台だと思っている。それなら数人くらいネガティブに素直になった感想をきちんと書いてもいいだろう。

 華STを観劇した後に開いたスペースやSNSでの反応を見るに、声にはしていないがある程度思ったことがある人間もいたようだし。

 

 前提として、私は華Doll*の原作ドラマCDが好きだ。――正確に言うなら、シナリオ担当であった関涼子さんの本が好きといったほうが良いか。最近担当が変わってしまったようなので100%の好感情で原作コンテンツを追えていないのも事実だが、今のところ好きなことに代わりはない。

 原作が好きすぎるがゆえに、疑問をいだいた箇所が多すぎたというのもあるだろう。

 演者の演技は悪いと思っていない。経験値の浅さ、キャラ解釈の違い等はあるが、それは舞台のひとつの良さでもある。それぞれの演者が考えて咀嚼したものを見るのが楽しみなので、そこで悪いと思ったものはひとつもない。むしろpart1から成長した演技や細かな表現力の成長を見て、素直に感心していた。だがまあ、演者の演技については他の方々が上げているため、取り立てて私が話すこともないだろう。

 どちらかと言うと、私が指摘したいのは音響と本と演出だ。

音響

 アニメイトシアターの特性だろうか。効果音含め音が大きすぎる。part1では楽の前日に観劇したにも関わらず完全に音割れしていた。円盤収録の都合上なのかもしれないが、円盤を見ても俳優陣の声とバランスが合っているとは思えない。

 これに関してはアンケートにも記載したためかpart2ではある程度改善されていたが、転換の音や効果音が大きすぎるためにびっくりして席を揺らしてしまった。前回の音響を考えると、音割れしていないだけマシと思うべきかもしれない。複数の方に意見を聞いてみたが、やはり客席側から聞くに音が大きすぎたこと自体は事実のようなのでPE席だけでなく実際の客席で確認したのか疑問だ。

 そもそも舞台に対してBGMが多すぎるというのもひとつある。これは後にまとめて話すことだが、音が多すぎるために場面のメリハリがないことが多かった。音に任せて場面転換をするのであれば、それに対する緩やかな導入がなければ観客がついていけない。急に音と照明を切り替えれば(関連性はあるにしろ)全く別の話を始めていいという話ではない。シームレスにはさまるThe Way I Amのダイアリーにつなぐための演出には未だ疑問が残っている。

脚本

 part1の時から感じていたことなのでどちらのせいかははっきり判別できないが、全体的に話がわかりにくい。part2に関しては初見の感想を聞いたところ、凌駕の立ち位置について勘違いしていたという意見もあった。

 これはThe Way I Amのダイアリーを取り入れようとしたことも原因にあるだろう。本人の思考をダイアリーの独白に任せきりにしているせいで本来の話の流れが茫漠になっていた。

 帰宅してからpart1の円盤を見返してみたが、まだpart1のほうが話はわかりやすかったかもしれない。part1は関先生が脚本を担当していたからという事情もあるだろうか。1のときは初見でも理解できる本の構造になっているが、part2は原作華Doll*を”知っている”前提で話が進められている。

 もちろん、part1をみてpart2も見ようと思ってくれた人間の中には原作CDを聞いてくれるだけの熱量を持っている人もいるだろう。だが、俳優のファン等基本的には演技と舞台を見に来る客も当然いる。そんな人に対してのアプローチとしては明らかに優しくない。また、原作の芯を食っていないのも見にくさに起因しているだろうか。本だけを純粋に抜き出したとき、原作でロジカルに裏付けされたセリフの数々を中途半端にしか抜き出せていなかった。この点は元々原作シナリオを担当していた関先生の脚本のほうがマシだったと言わざるを得ない。

 入れたいエピソードが多いことも、描きたいこともなんとなくは察せられる。2つの舞台を通じて(結果的に)計5時間近くになったステージで、原作CDをすべてカバーできないのもわかる(1st seasonの原作が5時間弱であることを考えると疑念もあるが)。だからといって観客に誤解が生じるような脚本――ひいては、客側の前提知識に任せる脚本になっていたのはいかがなものだろうか。

 まあこれはムービック主催のステージ全てにおいて言えることなので、ムービックの傾向と言われてしまえばそれまでだが。

演出

 演出家の山本タクさんが良い方なのは、実際のカンパニーの様子やこれまで演出してきた舞台の様子を調べてみてもわかる。実際、コメントひとつをとって見ても誠実で良い方なのだろうと思う。

 だが、それと演出の出来は別だ。

 これは個人の意見になるが、舞台においては演出が全てだ。もちろん役者の演技力も大切だが、それは演出という土台の上に成り立つ結果のようなものである。演出に合わせて脚本をほぼ書き換えてしまう演出家もいるくらいだ。舞台を良いものにするかしないか、その根幹を握っているのは演出家だと考えている。

 こう言ってしまうと失礼に当たるとわかっていながらあえて書くが、この演出の方が捉えた華Doll*はこうなのかと眉をひそめずにはいられなかった。

 原作CDを聞いたことはもちろんあるだろう。であれば、原作の雰囲気というのもある程度はわかったはずだ。漫画や小説が原作でないこともあり、ドラマCDはすでに声優の方が演技をされている。原作ファンはもちろんその雰囲気を知った上で舞台を観にくる。その中にはキャラクターが好きな人間や、描かれた関係性を見たい人間も多数いるだろう。同じように、脚本と声優の演技によって形作られた作品の構造そのものを好んでいる人もいる。

 おそらく私は後者の側で、自分の中で最も大切だったのがそこだったのだと思う。だからこそこんなにももやもやと消化不良を起こしているに違いない。

 なぜ舞台側の面々はやみくもに叫んでいたのだろうか。声を張ることは演技に必要だが、必要以上に叫びすぎていてキャラクターが情緒不安定に見える。
特に疑問をいだいたのは、part1の理人と凌駕の場面だ。凌駕がチセに厳しい言葉をかけた理人を諫めるシーンで、かなり大きな声をかけている。原作ではどうだっただろうか。セリフだけを見れば確かに叱っているようにも見えるかもしれないが、原作の凌駕自身は静かに気が立って思ってもいないことを口走ってしまった理人に冷静になるように求めている。part1終盤の凌駕が陽汰を諫めるシーンも、その後眞紘が「僕のせい」と自分を責めるシーンも同じだ。

 そもそも私にとって華Doll* 1st seasonとは、全体的に静かなイメージがあったのだ。皆が和を保つために理性的に話をする。思いやりから自分の感情を押し留めているためにそれぞれの感情がこじれ、話がややこしくなる。そこから感情の吐露であったり、腹を割って話をしていく中で彼らなりの絆を築きより強固な関係を形成していく。一緒に過ごした日々の中で積もり積もったものが未練や勇気に変わって行動に移す力になる。
原作CDの脚本はかなりロジカルに出来ていて、感情的になる演技がより効果的になるように、言葉と演技が織り込まれている。

 だからこそ分からない。なぜ声を張ったのだろう。全員が不必要に語気を強める必要が果たしてあっただろうか。皆が感情的である必要がどこにあったのだろう。

 特に眞紘と凌駕の一連のくだりは、努めてみんなの前では理性的であったふたりだからこそ生まれていた「隠れた感情のこじれ」が全く表現できていない。眞紘と凌駕のオタクだからだろうか。特にふたりが理性的に話ができていないことに違和感しか感じなかった。

 やたらと全員でユニゾンさせたこともよくわからない。それが効果的な演出なら良いと思うが、声を合わせるために話の流れが止まってしまうことが多すぎて途中からうんざりした。舞台ならではの演出というなら、それがもたらす効果について考えてしまうのが私の悪いところであるが、今のところそれによるメリットが見当たらない。

 また、このユニゾン時に全員が不思議なポーズを取っていたことも謎だ。ポーズを取ることによる話の流れも全くつかめない。

 プロジェクションマッピングのような演出は悪くないが、演者にフォーカスが当たっている本の内容にも関わらず映像を映すために舞台が暗くなっている理由がわからない。開花時の訴えかけが難しいのはわかるため、この部分に関してはある程度仕方がないと捉えているが、これが明確に効果的だったと思えるのはチセのシナスタジアの表現くらいだ(この点でいうとpart1のチセ開花シーンはかなり良かった)。

 加えて、本編として注目してほしい部分が展開されているとき、舞台脇で他の演者が行っている演技によって客席に笑いが起こってしまっていたのも私としてはあまり良いと思えなかった。具体的にはpart2の中間、理人が眞紘をセンターとして認めている旨を伝える場面だ。プロダクションからの支給品を開けてはしゃいでいる凌駕・チセ・陽汰が脇にいたが、ここのコミカルな動きに注目して笑う客席が多かったために実際ライトが当たっている理人と眞紘の印象が薄くなった。

 確かにそのキャラクターとしてはやっていただろう動きであったため、解像度を上げるという点では良かったかもしれない。だが、それによって注目されるべきだった理人の不器用な優しさとフォローが客席に伝わってこなかった。

 私はなにも、はしゃぐ場面を入れるなと言っているのではない。キャラクターが本編で描かれていなかった部分を演者が表現するのも舞台の良いところだ。こう言ってはいるが、背中を叩く凌駕の力が強すぎて痛がるふたりの演技は良かったと思っているし、楽しそうに荷物を開けては中が何なのか興味深く見ているチセの様子も見られてよかった。ただ、メインの部分が展開されているところで脇の演技が本編を食っているのが演出としてうまいとは言えない。

まとめ

 総じて演出にメリハリがなかったため、のんべんだらりとした印象を持ってしまった。元々華Doll*が好きで「このシーンが見たかった」という部分がある程度満たされる気持ちはあったものの、これが華Doll*なのかと言われると首肯はできない。

 演者の演技そのものは、荒削りな部分も確かにあったものの全体的には良かったと考えている。特にpart2での陽汰の演技は、感情的な舞台の方向性も相まって胸に来る部分も多かった。part1に比べめきめきと成長している姿を見させてもらったがゆえに、やはりもったいなく感じてしまう。ひとつの表現としてこの舞台を受け入れたものの、この舞台が良いものだったと晴れやかに言えない心地の悪さが残念でならない。

 ただ、これは私自身の感想であり、これが好きな人も多くいるのだろう。実際肯定的な感想を見かけるたびに、楽しめた人たちのことを羨ましく感じる自分もいる。

 私もこれを見て楽しみたかった。

 これが公式だ。公式の舞台の演出だ。そう言われてしまえばこちらは飲み込むしかないが、「好きではなかった」とネットの隅で声をこぼすくらいは許してほしい。私にとってあれを華Doll* 1st seasonだとはどうしても思えなかった。それだけの話なのだから。

 この感想を読んだ人の中には、何度も観劇を重ねた人もいるだろう。どうせお前は対して通っていないだろうと思うに違いない。事実そうだ。地方に住む貧乏社会人ということもあり、実際に観劇できたのはpart1が1回、part2が2回と少なかった。

 しかし、舞台に関わらずコンテンツは初見の印象が全てだ。初見で面白くないと思ってしまえば「次」はない。特に舞台は他のコンテンツと違い、安くはない金を支払って観に行く。それで面白くないと思ってしまったなら、それが全てだ。

 

 もちろん、もちろん良いところもたくさんあった。良くないと思ったところばかり書き連ねたため印象が悪くなってしまうかもしれないが、あの作品すべてを否定するつもりは毛頭ない。舞台を行ってくれたことで興味を持ってくださった方もいるだろうし、原作ファンに与えられた新しい表現は新鮮だった。

 ただどうしても、「どうしてああなってしまったのか」という気持ちだけはずっと拭えずにわだかまって消えない。

 好きになりたかった。

 好きになるには自分にとって大切な要素が全く足りていなかった。それだけだ。

 

 ちなみに華ST part2の円盤は購入予定だ。色々言ってしまったが、好きなドラマCDが視覚化される喜びは確かにこの舞台でも感じられた。この「先」を見ていきたいという気持ちは私にもあるため、2nd seasonの舞台が続くよう願っている。

 

 最後に、演出家の方の他の作品を見て判断したいと思ったものの円盤化されているものが手に入らなかったため、配信などでも良いので、もしおすすめの舞台があれば教えていただきたい。これをしたためる前にちゃんと別のものを見て客観視したいと思ったのだが、探しても得られなかった。
華Doll*が好きだからこんな気持ちになったのか、きちんと自分の感情に整理をつける時間がもう少し必要だと思う。